リハビリテーションの手順と内容
疾患の急性期から回復期は、脳組織の浮腫や炎症が消失するに従い、認知障害の自然回復が期待されますが、認知機能訓練(言語訓練、ドリル学習、個別訓練、日常動作訓練含む)の効果にも高いエビデンスがあります。一方、時期が経過し在宅生活が開始された後は、認知機能訓練に加えて、代償手段を身につける訓練(記憶障害に対するメモ手帳を使いこなす訓練など)も行い、目標とする生活環境に適応する技術を身につけられるよう訓練を行います。以下に在宅生活を中心として行うリハビリテーションを整理しましょう。
- 日常生活動作(ADL)訓練:食事動作、更衣動作、排泄動作、整容動作、入浴動作などを通して、どのような高次脳機能障害があるのかが自覚され、これらが自立できるように徐々に介助、監視を減らしていきます。各動作は、遂行機能、注意機能等、多くの高次脳機能を含んでいます。
- 日常生活の応用動作訓練:日常生活動作がほぼ可能となれば、料理、洗濯、買物、外出、金銭管理、趣味など、さらにADLの応用動作の訓練に進みます。各動作は、それぞれ簡単な内容から複雑な内容に難易度を高めていきます。これらは認知リハビリテーションとしてもっともよい題材です。なかでも、外出訓練によって、公共交通機関が利用できるようになると、行動範囲が広がり社会性が拡大します。
- 就学・就労訓練:学生であれば就学のための準備を、復職を希望する場合は、高次脳機能障害の内容や程度によって、復職が可能なのか、福祉的就労に進むのかの評価が必要となります。就労を目標とする場合、地域の就労支援機関を利用することも視野にいれます。
- 環境調整:環境とは、患者周囲の物理的環境と人的環境、制度を指します。注意障害や遂行機能障害があると、騒々しい環境では注意が散漫となることがあるので、静かな環境が望ましいでしょう。また、複数の作業をこなすことが困難となるので、一つ一つを確実にこなした後に次の作業をこなすように習慣づけを行います。記憶障害がある場合、一日の予定がわからず混乱することがあるので、一日の予定は部屋にわかりやすく掲示しておきます。記憶障害のある方が自立できるかどうかは、メモや手帳などの外的補助手段を使えるかどうかに大きく左右します。左半側空間無視のある場合の部屋のレイアウトも大切です。半側無視に対するリハビリテーションという意味では、無視側にテレビ等、刺激の入るものを設置しますが、安全性という意味では、無視側に廊下や危険物がないように設置します。
スタッフの接し方も大切で、障害を十分に理解し、当事者の立場に立った対応を心がけます。失語症があれば、ゆっくりと話しかける、じっくりと話を聞く。怒りやすい方であれば、なぜ、怒りの感情が表出するのかを分析し、怒りを誘発させるような環境を極力排除します。
- 社会的行動障害(うつ、引きこもり、イライラ、暴言、暴力等)に対する対応
- 行動療法:問題となる行動に対し、(i)先行する要因を調整する、(ii)表出した行動に対しフィードバックを与え、適切な行動が表れたら、ほめるなどの正の強化を、不適切な行動には注意するなどの不の強化を与えて行動の変容を図ります。
- 社会技能訓練:ロールプレイなどを通して、社会生活で必要な技能を習得する。不適切な行動や気分を変化させうるとするエビデンスの高い報告があります。
- 薬物療法:薬物はなるべく使用を避けますが、適宜、主治医と相談し、精神安定薬などの使用も考慮します。
図 リハビリテーションの手順
資料提供:TKK医療顧問 渡邉 修 氏
東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座 教授
東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科 診療部長