高次脳機能障害を引き起こす主な疾患

高次脳機能障害の原因疾患は、東京都の調査(東京都高次脳機能障害者実態調査検討委員会:高次脳機能障害者実態調査(委員長:渡邉 修)報告書 平成20年3月)によると、80%程度を脳卒中が、10%を脳外傷が占めます。

 【脳卒中】

脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の総称です。脳卒中の中の発症頻度は、脳梗塞は約70%、脳出血は約20%、くも膜下出血は約10%です(図1)。

脳梗塞とは、脳血管が閉塞して、脳の一部が梗塞(脳組織の壊死)に陥る病態を指します。発症時に意識障害を伴うような鉛筆の芯以上の太い血管の閉塞例では、ほぼ全例、なんらかの高次脳機能障害が発生します。一方、髪の毛のように細い血管の閉塞による梗塞(ラクナ梗塞)では、麻痺などが残ることはありますが、高次脳機能障害は表れにくいです。

脳出血とは、脳血管が破れて脳の内部に出血が生じる状態です。その結果、脳の一部が壊死に陥ってしまいます。この場合も、発症時に意識障害を伴う例では、出血量が大脳半球を強く圧迫するほどであったと予想でき、高次脳機能障害が残存する可能性は高いです。

くも膜下出血は、脳血管に5mm程度の脳動脈瘤が生じ、その動脈瘤が破裂する疾患です。その重篤度は、発症時の意識レベルの程度で評価されるので、やはり、発症時に意識レベルが低下するほどの例では、高次脳機能障害が残存する可能性が高いといえます。また、くも膜下出血の原因として多い脳動脈瘤は大脳底面(主に前頭葉底面から側頭葉底面の内側部)に存在することから、脳動脈瘤の破裂による症状は、社会的行動障害および記憶障害がみられやすくなります。

これら脳卒中の主な原因は、高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などに起因する動脈硬化および心房細動であり、いずれも加齢とともに発症頻度が高くなりますので、高次脳機能障害のある方も、その後の健康管理が大切です。

 

図1 

    

【脳外傷】

脳外傷の2大原因は、交通事故と転倒転落です。前者は若年層に、後者は高齢者に多い傾向があります。その他に、スポーツ事故や暴力や虐待などがあります。

脳外傷の重症度は、受傷時の意識障害の程度で決定されます。すなわち、受傷時に、意識がはっきりしている場合は「軽度」、呼びかけても応答がなく、このような昏睡状況が6時間以上続く場合は「重度」と判定されます。したがって、交通事故でも転倒事故でも、スポーツ事故においても、受傷後の意識障害の程度や持続時間は、予後を予測する上で大切な目安となります。

では、どのような後遺障害が起きるのでしょうか。重度例であれば、前頭葉を損傷する例が多いのです。図2のように、前頭葉は前方に張り出しているので外傷を受けやすいのです。その結果、注意集中できない(注意障害)、計画的な行動ができない(遂行機能障害)、昨日の出来事を忘れた(記憶障害)、イライラが止まらない(感情のコントロール障害)など、いわゆる高次脳機能障害が表れやすいのです。

 

図2

東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科 診療部長

資料提供:TKK医療顧問 渡邉 修 氏
                     東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座 教授

                     東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科 診療部長